「君へ」
「俺のどこが好きなの?」
「俺より顔も性格も良い人がいれば、その人のことを好きになるの?」
「好きなところは挙げていけばキリがないよ、
例えば顔をひとつ取っても、真剣な顔、眼鏡をかけた横顔、くしゃっとした笑顔、優しいまなざし。
性格も、実は膝枕が大好きな甘えんぼうなところ、首席を取るくらい真面目なところ、夢を持っているところ、しっかりしているところ、綺麗好きなところ…他にもたくさん」
「じゃあそれ全部上回る人物が現れたら?」
「世の中にはそういう人もきっといると思う、けど、だからってその人のことを好きにはならないよ。
好きなところはと聞かれればさっきみたいに大きく言えば顔だったり性格だったり、細かい部分だったら『○○なところ』って答える、
けど好きなところなんて後付けでしかないんだよ、
たとえばわたしが君と付き合う前、さっき挙げた好きなところはひとつも知らなかった。
君がわたしに好意を持っていると気付いたとき、(上から目線は承知の上で)『この人となら付き合ってもいいかも』と思った。
それは特に理由なんてなくて、ただ、いいかもって思ったからだった。
好きになる理由なんてきっと後付けだらけで、それは付き合ってる今も変わらない。
たとえば君に嫌なところがあったとする。わたしは『××なところが嫌だなぁ』と思ったりする。
じゃあ、××なところがない人を好きになるかといえば、それは違う。
わたしは君に対して『××なところもあるけど許せる』という感情になる。
肝心なのは、『こんなところがあるから好き』じゃなくて、『こんなところもあるけど好き』。
つまりそれは好きな理由をいくつ挙げたところで何の意味もない、君だから、という理由に他ならないんだよ。
そう、何で君のことを好きなのか答えると、『君だから』以外の答えが見つからない。
理由なんてない、でも君だから、わたしは好きなの。
きっと『君だから』の一言の中にはいろんなものが詰まってる。これまでの想い出とか、情愛とか、わたしが意識していないだけでたくさんの想いが詰まってる。
でもわたしはこの一言しか言葉も感情も持ち合わせていない、理屈とか今後のこととかそんなのどうでもよくて、わたしはただ君が好きで、君以外は嫌なんだよ。」
「わたしはやっぱり君の笑顔が一番好き。でもわたしが君を思い出すとき、笑顔じゃなくて真顔で少し冷たい感じの君なんだ。
それは一週間のうち半分以上は仕事中の君を見ているからかもしれない、けど、もしかしたら楽しかった想い出より、君の冷たい顔を見る機会の方が多かったからかもしれない。
わたしたちは同じ時を過ごす中で、決して少なくない数喧嘩した。
価値観がとてもずれていて、食べ物の趣味も全く合わない。
わたしたちは、仲の良いカップルとは言えないかもしれないし、友達のままの方が円満に過ごせていたかもしれない。
周りからは別れるべきって散々言われて、別れた方がお互いにとってベストな選択かもしれないと思った日も幾度となくあった。
でも、やっぱりわたしは君が好きだった。
わたしたちの相性は良くないし、理解できない部分もあるし、イラつくことだってある、
それなのに、ごちゃごちゃ何ヶ月かけて考えても、最終的には同じ答えにたどり着く。
どんなに放置されても、友達から最低な男だと罵られても、将来性がなかったとしても、好きな気持ちが落ちたと言われても、わたしは、君が好きだから。
好きだからこそわたしは自分の気持ちを押し通したい。何度でも好きだって伝える。もう一度同じ時を過ごしたい、それだけのために、かっこ悪くても君が振り向くまでずっとずっと伝える。
…けど。
好きだからこそ、もし君がわたしともう一度付き合うという選択肢を取らなかった場合、スッパリと諦めようと思う。
わたしの好きな人には一番幸せでいてほしいし、わたしの信頼する人がそれを選択するなら、きっとそれが正しいから。
わたしは君を幸せにする自信がある。君に似合う良い女になるよう努力する。
でも、君がそれをいらないと言うのなら。わたしのこの気持ちごと、迷惑だから消し去るね。もう二度と、君の選んだ幸せを邪魔しないよう、もう二度と、君には近付かない。
これはわたしの賭けでもある。
後悔しないために全力で君に伝えた。だからもうどっちに転んでも大丈夫。どうせ泣くし、どうせしばらく経ったら忘れる。
直接伝えられないのが残念だけど、きっと直接話したら身体がこわばってしまうし、泣いちゃって話にならないと思うから。
くらえ。わたしの全力。」